まだブログの仕様も定まってませんのでご容赦ください

【質問回答】留学奨学金受給後の日本での就職義務について

JASSO奨学金の記事に質問をいただきました。

他の方も気になるである点であり、コメント欄での返信だと分かりにくいかと思いましたので、新たに記事として立てて回答させていただきます。

 元記事はこちら↓ 

archaeologychan.hatenablog.com

 

 

質問

はじめまして、来年オーストラリアの大学に修士で留学を考えており奨学金制度を活用したいと考えております。
大変参考になる情報の掲載ありがとうございました。
初歩的な質問で大変恐縮なのですがJASSOの奨学金制度を始め給付型の多くは留学後の日本での就職を条件とするものが多く見受けられるように思いますが、これは何か留学後も就職先情報の提供等を求められるのでしょうか。どの程度のコミットメントが求められ、それについて何かトラックされる等のプロセスがあるかご存知でしたらご教示いただきたく思います。よろしくお願いいたします。――Rinさん 2019年3月28日

 

回答

Rinさん、ご質問いただきありがとうございます。また、回答が遅くなってしまい申し訳ありません。

既に他の場所で回答を見つけられているかもしれませんが、他の方にとっても有意義な質問かと思いますので、ここで回答させていただきます。

 

JASSO 海外留学支援制度(大学院学位取得型)

まずは、私が受給していたJASSOの奨学金についてです。

最新の2019年度募集要項を確認してみると、「5. 資格要件」の項に以下のような記述があります。(2019年度募集要項はこちら ※PDF注意)

 (2)次のいずれかに該当する者
 ①留学期間終了後、大学や研究機関等において、我が国の国際競争力の強化や国際社会への知的貢献に資する教育研究を行う意思を有する者
 ②留学期間終了後、国際機関等の中核的な職員として国際貢献に資する活動を行う意思を有する者
 ③留学期間終了後、その他の機関において、①又は②に類する活動を行う意思を有する者


(3)国費による本制度の支援を受けて自身が留学で得た経験や成果を、将来にわたって日本社会に還元し、国や社会に貢献する者で、かつ機構が依頼する各種イベントへの参加、書籍への執筆、調査等に協力する者
※留学先での日本のPRの実施や日本での留学報告会、留学経験を踏まえた社会貢献活動に参加することも含まれます。これらの活動状況については、支援期間中及び支援期間終了時から5年の間、年に1回実施する派遣学生状況調査において報告を求めます。 

第1項の「趣旨・目的」と、この「資格要件」(2)、(3)を読む限り、奨学生には日本社会への貢献が強く期待されていることは間違いありません。

一方で、(2)の①の「大学や研究機関」という言葉には「我が国の」等の限定はかかっておりません。また②、③の要件についても、日本国内で勤務することや、日本に本部・本社を置く組織で勤務することを要求していません。

これは素直に考えれば、日本での就職を条件としていないと考えてよいと思います。

ちなみに私が修士留学に際して受給した際にも、出願書類や面接では、修士課程修了後そのまま海外で博士課程に取り組む予定であること、更にはポスドクも海外でやるつもりであることを明確に示しておりました。同時に、日本社会への貢献という点では、日本人研究者としてこのテーマに取り組むこと自体に加えて、将来的には日本に帰ってきて国内の大学や研究機関に職を求める方針であるとも伝えました。

 

さて、留学後の就職状況については、上記(3)に示してある通り、年に1回の派遣学生状況調査への協力が求められます。大学とりまとめ応募を利用した場合には、当該大学の担当者からメール等で連絡があり、Excelに記入するだけの比較的簡易な調査です。実は私も、つい先日回答したところです。

今年度から調査票の様式が改められているのですが、平成30年度以前のバージョンは以下のJASSOウェブページでも公開されています。

平成30年度以前の海外留学支援制度(大学院学位取得型)

 「6.海外留学支援制度(大学院学位取得型)状況調査」>【派遣者用】大学院学位取得型状況調査ファイル(派遣留学生本人作成)

 

様々な項目があり、本年度からのバージョンでは現所属先も回答することになっていますが、とはいえそれも日本国内でないから何か問題が生じるようなものではなさそうです。

 

まとめますと、JASSOの海外留学支援制度に関しては、受給終了後の活動や所属については一定程度の方向性の提示と追跡調査はあるものの、日本国内での就職に縛る趣旨があるものではなさそうです。

 

民間財団などの奨学金について

それでは、JASSO以外の民間財団等の奨学金についてはどうでしょうか。

民間財団等の奨学金にも、留学終了後には日本社会に貢献することを強く期待しているものは少なくありません。そうした奨学金の中には、日本国内での就業を条件としているものも確かにあります。

私自身は、それらの奨学金の受給者ではありませんので、確実な情報をお伝えすることは残念ながらできません。

しかし、やはり国内での就業を条件として明示している奨学金である場合は、少なくとも日本に拠点を置く研究機関や国際機関、企業を留学終了後の進路の第一選択肢として提示することが必要であるかと思います。

では、そのつもりで出願して無事受給したものの、自身の考えや環境の変化によって日本国内での就業が現実的でなくなった場合にどうするのか。日本で職を求めても得られなかった場合にどうするのか。あるいは、数年日本で働いた後で再び海外に行くことができるのか。

明晰な回答ができず申し訳ありませんが、そうした場合にはまずは奨学金の支給元と相談してみるしかないのではないかと思います。支給元や担当者によって考え方も先例も様々でしょうし、それによって対応もまちまちだとは思います。とはいえ、(それなりの追跡調査が行われる場合では特に)相談なしに約束を反故にすることは、あとあと自分に悪い結果が返ってくることにもつながりかねません。

まさか、支給額を全額返還しろ等という強硬な話にはならないかもしれませんが、たとえばその財団が実施している研究助成に出しづらくなるとか、出願時の締め付けが厳しくなって後輩が苦労するとか、様々な可能性が考えられます。

もちろん、支給元によっては条件に示しつつも、比較的融通の利く場合もあるかもしれません。そうした情報は、発信主の特定が容易であるゆえに、ブログやTwitterレベルでも中々発信されておらず、インターネットで見つけるのは難しいかと思います。むしろ、(もちろんそれが常に容易でないことは重々承知しておりますが、)過去の受給者などから直接聞く以外にないかと思います。

以上まとめますと、結局はケースバイケースということになってしまい恐縮ではありますが、それくらい奨学金の支給元によって考え方も融通の利く幅も違いそうであるということだけ、ご認識いただくほかないかと思います。(私もほとんどの財団にはこちらが出願しただけの片思いな関係しかありませんが、募集要項と出願書類の基準や採否の連絡等だけを取っても、千差万別あることを痛感できました。)

 

最後に

長々と書いてしまいましたが、ともあれ、まずは様々な奨学金についてその募集要項を丹念に確認して、自身の条件を「合わせていく」ことができないか考えてみるのが最善かと思います。

偉そうに書いてしまい恐縮ですが、もしかすると、その努力の中で意外な進路の方向性を見いだせたり、自身の研究テーマの新たな側面を見つけることができるかもしれません。また、研究の道に進むにしても、国際協力等の道にしても、そして営利企業に就職するにしても、自身の持っている手札と提示されている条件とを(時に屁理屈スレスレで)すり合わせていくことは、非常に重要なスキルだと思います。それは、留学奨学金に関しても同様です。

どうか、ご自身の条件に合致する最善の奨学金を獲得できますよう、そして思い描いている留学を実現できますよう、心よりお祈り申し上げます。

また、おそらく多くの方が気になるであろう点について的確な質問をしていただき、大変にありがとうございました。また何かありましたら、ぜひ遠慮なくご質問ください。